ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットンとアンドリュー・スコットによる『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』を読了しました。
100年以上生きることが一般的になるこれからの時代では、これまでの「教育⇒仕事⇒引退」という3ステージの生き方は通用しなくなるとのことです。80歳や90歳まで働くことを想定しなければならず、テクノロジーや産業構造の変化が激しい時代に、20歳頃までに受けた教育で身につけたスキルによって60年~70年働き続けるのは困難だからです。
3ステージの代わりに出現するのは、マルチステージの生き方です。「教育」と「仕事」のステージが複雑に入り混じり、さらに「選択肢を狭めずに幅広い針路を検討するエクスプローラー」のステージ、「自由と柔軟性を重んじて小さなビジネスを起こすインディペンデント・プロデューサー」のステージ、「さまざまな仕事や活動に同時並行で携わるポートフォリオ・ワーカー」のステージなどの新しい選択肢を実践する人が増え始め、人々がもっと自分らしい人生の道筋を描くようになると書かれていました。
この本を読んで、新しいことを楽しく学び続けながら、100年ライフを満喫していきたいと思いました。
以下、よかったところを抜粋したいと思います。
★生涯を通して新しいスキルと専門技能を獲得し続けることが一般的になるだろう。人生を100年とすれば、私たちは一生の間に87万3000時間の時間をもっていることになる。なんらかの専門技能を習得するには1万時間が必要だとよく言われているが、これだけ多くの時間をもっていれば、生涯に複数の専門技能を学ぶことは不可能ではないし、途方もない難題でもない。
★変わるのは、どんなスキルや知識を学ぶかだけではない。学び方も大きく変わる。とくに、「経験学習」の比重が大きくなるだろう。教科書と教室での学習にとどまらず、実際の活動を通じておこなう学習のことだ。
★自分のことをよく理解し、よく学ぶためには、ほかの人たちに意見を求め、寄せられた意見について内省することが有効だ。内省の重要性はきわめて大きい。自分と世界についての認識に新しい情報を加えるだけなら、誰でもできる。変身資産を積極的に築こうとする人がほかの人と違うのは、単に情報を加えるだけでなく、自己認識と世界の見方を変更することだ。その結果として、自分についての理解が広く深くなり、いくつもの要求と不確実性に対処する能力が高まる。
★視点が変わるきっかけになるのは、それまでよりも広く多様性に富んだ人的ネットワークに触れることだ。アイデンティティは友人関係やその他の人間関係に深く根ざしているので、移行を遂げるときはどうしても交際範囲が変わらざるをえない。具体的には、ロールモデルになり、意気投合できる人物、自分と同様の移行を経験した人物を探すことになる。そうした人物を通じて、新しく踏み出そうとしている世界の流儀を学んでいく。変身は一人ぼっちでは実現できないし、たいていは、昔と同じ友だちグループの中でも実現しないのである。
★変身資産にダイナミズムをもたらすのは、実際の行動だ。過去に例のない大胆な解決策を受け入れる姿勢、古い常識ややり方に疑問を投げかけることをいとわない姿勢、画一的な生き方に異を唱え、人生のさまざまな要素を統合できる新しい生き方を実験する姿勢をもっていなくてはならない。
★エクスプローラー(探検者)のステージと聞いて思い浮かぶのは、興奮、好奇心、冒険、探査、不安といった要素だ。エクスプローラーは、一カ所に腰を落ち着けるのではなく、身軽に、そして敏捷に動き続ける。身軽でいるために、金銭面の制約は最小限に抑える。このステージは発見の日々だ。旅をすることにより世界について新しい発見をし、あわせて自分についても新しい発見をする。
★エクスプローラーは、周囲の世界を探査し、そこになにがあり、その世界がどのように動いているのか、そして自分がなにをすることを好み、なにが得意かを発見していく。このステージは、自分を日常の生活と行動から切り離すことから始まる。新しい町に移ってその土地の人たちと知り合ったり、知らない国を旅して自分の生き方について考えたりといった具合だ。
★特定の問いをもたないエクスプローラーもいる。新しいものを発見する喜びを味わうために旅に出る「冒険者」たちだ。この人たちの目的は、「はしゃいで跳ね回る」こと。そうした冒険を通じて紡ぐストーリー—なにを見て、誰と出会い、なにを学ぶか—が未来の人生を規定する。このような体験は、ある意味では人生の本質だ。世界を発見するために手足を伸ばす自由を謳歌することは、人間を人間たらしめている要素と言っていい。100年ライフでは、このように自分だけの冒険に乗り出そうとする人が増えるだろう。
★長寿という贈り物を手にする世代は、もっと選択肢が多く、もっと多様な人生を送ることができ、もっと多くの選択をする必要がある。そのため、正しい道を選び取るために時間を費やすことの重要性が高まる。未来を見据えて、自分の関心と情熱に沿った教育を受けること。自分の価値観に適合し、やり甲斐を感じられ、自分のスキルと関心を反映していて、しかも袋小路にはまり込まないような仕事を見つけること。自分の価値観を尊重してくれ、スキルと知識を伸ばせる環境がある就職先を探すこと。長く一緒に過ごせて相性のいいパートナーを見つけること。一緒に仕事ができて、自分のスキルおよび働き方との相性がよく、できれば自分を補完してくれるビジネスパートナーと出会うこと。具体的には、こうしたことが必要になる。
★長く生きる時代には、自分と相性のいいものを見いだす資質がきわめて重要になる。
★3ステージの人生に代わり、マルチステージの人生が標準になれば、人生で経験するステージの多様性が増すことは間違いない。それにともない、時間の配分方法に関するニーズも多様化する。金銭的資産の蓄積に重きを置くステージには、人々はおそらく今後も長時間働くだろう。その一方で、家庭の事情やみずからの教育のために、労働時間を減らし、余暇時間を増やす時期も出てくる。
★100年ライフでは、家族と友人、スキルと知識、健康と活力などの無形の資産を充実させることの重要性が高まり、そのための投資が必要となる。家族や友人と過ごす時間、教育とスキルの再習得にかける時間、エクササイズをする時間に投資しなくてはならない。
★いま起きているのは「親密さの変容」だ。パートナー同士の間に、言うなれば純粋な関係が生まれつつある。それは、取引的性格をもつ旧来の夫婦関係とは異なり、その関係自体が双方に恩恵をもたらすからこそ維持される夫婦関係のことである。そのような関係は、内省を土台とし、つねに再検討と再構築を受け入れる。それは、不変の関係でもなければ、惰性で継続されるような関係でもなく、二人の間で調整を重ねていく関係だ。
★最も重要なのは、それぞれが自己探求を通じてみずからのアイデンティティを形づくる一方で、共通の経験を積み重ねることにより相手との親密な関係を発展させることだろう。
★スキルを更新し、新しい試練に挑み、新しい人的ネットワークに投資することは、パートナーとの緊密な協力関係があれば格段に実行しやすくなる。質の高いパートナー関係が重要になるのは、そのためだ。そうしたパートナーがいれば、長い人生を通じて情緒面での支えになり、難しい決断をする際に意見と率直な批判を聞かせてくれる。そして、二人で助け合いながら、本当に大切なことに注意を払い、時間とエネルギーの割り振りを決め、健康な生活を送り、仕事、旅行、家計、地域コミュニティへの関わり方について慎重に選択をおこなえる。
★こうした長期のパートナー関係が機能すれば、二人の間で徹底した調整をおこなうことによって、世帯の所得を絶やさずに、無形の資産を再創造・再生できる。