【感想】幡野広志著『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。』

写真家・幡野広志さんの『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。』という、Webメディアcakes上での人生相談の記事をまとめた本を読みました。

『なんで僕に聞くんだろう。』がシリーズ1作目で、この『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。』は2作目です。

寄せられる千差万別の悩み相談を読み、その悩みへの幡野さんの回答を読むことで、自分の価値観を振り返ることができる本です。ところどころ、激しく心が揺さぶられます。

僕が幡野さんのアドバイスで心得ておきたいと思ったことは

・失敗を肯定する
・(いつか子育てをすることになったら)子どもからの愛情に依存せず、成長とともに適切に親子の関係性をアップデートする
・なにか問題を解決するときは、最善の方法と最悪の対処の2つを用意する
・「後悔」という、過去の自分といまの自分のセルフマウンティングはしない
・(いつか子育てをすることになったら)不安にさせて答えを与えることでコントロールするようなことはしない
・たくさんの好きを重ねて写真を撮る

ということです。以下、よかったところを抜粋して紹介したいと思います。

★スムーズにいかない人生をつまらないとおもうか、素晴らしいとおもえるかの違いは、失敗を肯定するか否定するかの違いだ。失敗を肯定するだけで、人生は豊かになって素晴らしいものになる。(49ページ)

★子どものよさを具体的にあげるとすれば、子どもが親のことを全肯定してくれることだとぼくはおもいます。
 愛情を注ぐ親だろうが、そうじゃない親だろうが、子どもは親を全肯定してくれるんです。自分よりも弱い存在のすべての愛情が疑いなくこちらに向けられます。
 愛情の注ぎ方って、盲点だったけど子どもが教えてくれるんですよ。だからぼくも子どものことを肯定して、大好きだと伝えています。
 そういう存在の人ってあなたの人生にいますか?ぼくにはいなかったです。たぶん似た存在は犬などのペットだとおもいます。これは配偶者との愛情とはまたちょっと異質で、子どもができたことで配偶者ではなく子どもがいちばん大切になる人が多いのは、子どもが自分を配偶者以上に愛してくれるからです。
 でもこれは子どもが生きる上で必要な生存本能だとおもうんです、そして下手をすると麻薬のように危険だとも感じます、子どもからの愛情に依存しちゃうよね。
 だからこそ適切に親子の関係性のアップデートが大切だし、夫婦関係をアップデートできないとね。(91ページ)

★なにか問題を解決するときは、最善の方法と最悪の対処の2つを用意したほうがいいです。
(中略)
 最悪を想定しつつ、ベストを目指してベターで落ち着くぐらいがいいとおもいます。(106ページ)

★後悔をたくさんすればタイムスリップしてやり直せるわけじゃないし、これからの人生にいかせない限り、後悔で悩んでいることほど無駄なことはありません、無駄どころか返済しない借金みたいなもので利息だけが増えます。
 後悔って簡単なんですよ、情報がすべてそろってどうなるか結末も知っていて、起こった事実にあーだこーだいう作業ですから。過去の自分といまの自分のセルフマウンティングなんです。大切なのはこれからを考えることです。(108ページ)

★不安にさせてあせらせたときに答えを与えると、人をコントロールできるようになるの。それで、大人が食べさせたいものを食べさせるような教育も簡単になる。不安と答えがおまけのハッピーセットみたいなものだね。
 オバケとか鬼がくるって不安をあおれば、部屋のおもちゃを片付けさせることだって簡単だよ、ぼくは息子に絶対にやらないけどね。
(中略)
 あなたみたいな不安と答えのハッピーセットを食べすぎた人って、たくさんいます。ぼくのところに届く大学生の悩みでいちばんおおいのが「やりたいことがわからない」です、めっちゃいっぱいいる。だいたいみんな就活の段階で気づくの。(115ページ)

★ぼくも息子がうまれてからたくさん写真を撮ってます。この相談の1ページ前の写真はうまれて10日後ぐらいだったんですけど、新生児って小さいじゃないですか。そしてすぐに新生児の顔が変わるし、うまれたばかりのころは頭の形も顔もエイリアンっぽいから、それがわからないように布で隠して、小ささを表現するためにぼくの手をいれたんです。
 ぼくが手を添えていることで、ぼくにとって大切な存在であることを、いつか見かえすであろう息子に伝えたかったんです。写真って考える作業なんですよ。何千枚と息子を撮影していますが、ぼくはこの写真がいちばん好きです。ぼくの写真集の表紙にも使っています。
 金太郎飴カメラマンに依頼するぐらいなら、親であるあなたが撮ればいいんですよ。
 子どもを撮る場合はよっぽど技術が高い撮影者でないかぎり、親が撮ったほうがぼくはいいとおもいます。なぜなら子どもにとって親が撮ってくれたというだけで、その写真に価値が生まれるからです。(125ページ)

★ぼくは写真を撮りすぎました。大切な瞬間はカメラではなく眼で見るべきだったと、いまではすこし後悔をしています。
 ぼくが撮影した息子の写真は、ぼくからすれば息子がいる情景の記録です。しかし息子の見ている情景はカメラを構えるお父さんです。お父さんの表情もわからない、お父さんと自分の間にいつもカメラがある。これは息子にとって寂しいことだとおもうんです。
 もしかしたら息子がぼくの顔を知らないかもしれないですよ、NO MORE映画泥棒に出てくるカメラの人みたいなかんじ。
 子どもの写真を撮ることもいいんだけど、きっと子どもからすれば、眼で見てほしいって感じるとおもうんです。ぼくはここ最近はなるべく写真を撮らないで、眼でいろんなものを見ています。そして感じたことを、なるべく言葉にしています。(126ページ)

★これから写真をたくさん撮るなら、好きなカメラを持ちましょう、中古でもなんでもいいです。そして好きな被写体を好きな場所で撮りましょう、海とか公園とか自宅とか。
 ここからが少し大切です。好きな光の時間帯に撮りましょう。早朝の光と昼間の光と、夕方の陽が落ちてから徐々に暗くなる時間帯はそれぞれ光が違います。写真は光があるからうつります、だから光がとても大切です。
 夕日が好きでも、夕日を撮っていたら電球を撮ってることとおなじです。美しい夕日に照らされた被写体を撮りましょう。
 好きな曜日や好きな季節や天気に撮りましょう。こうやってたくさんの好きを重ねると、あなたにとって好きな写真ができます。金太郎飴フォトでなく、あなたとお子さんでしか撮れない関係性で、好きなものをたくさん重ねましょう。
 声をかけてポーズをとらせたり、笑顔を狙うだけが写真じゃありません。
 最初は下手かもしれないけど、好きな写真が残せます。(127ページ)

★悩みは誰かにはなすだけで楽になるなんていうけど、ちょっと誤解しているなってぼくはいつもおもうんです。はなすだけで楽になるのは、正直に本音をはなせたときと、それを否定されなかったときだけなんですよね。ただはなせばいいってもんじゃありません。(211ページ)

抜粋は以上です。本の中に挿し込まれている写真もとても素敵ですので、ぜひ気になる方は手に取って読んでみていただけると嬉しいです。

それでは。