【本】幡野広志著『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる』

写真家・幡野広志さんの『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる』という本を、味わいながらも引き込まれて一気に読みました。凄い本でした。

2017年に末期癌で余命3年という宣告を受けた幡野さんが、2018年に、まだ幼い息子さんに言葉を残す思いで書かれた本です。

とくにグッときたところを、抜粋して紹介したいと思います。

★「いい写真ってなんだろう」とずっと考えていたけど、息子が教えてくれた。撮影者の伝えたい気持ちが正しく伝わる写真のことなんだと、ようやく気づいたのだ。

★結婚相手に限らず、「優しい人」かどうかを見分ける方法を、息子に2つ教えたい。
 ひとつは、悩み相談にその人がどう答えるかということ。
 人の悩みにどう答えるかは、自分の人柄を映し出すリトマス試験紙だ。悩んでいる人に、自分の答えを押しつけるようなひとはやめておいたほうがいい。相手をいったん受け入れ、そっと背中を押してあげるような人が優しい人だ。
 もうひとつは、弱い人にどう接するかということ。
 自分より弱い存在に強く出る人は、自分の子どもという弱い存在を押しつぶしてしまうから、やめておいたほうがいい。優しい虐待をしかねない相手だから、気をつけたほうがいい。

★観光客の写真がつまらないのは、他の人の写真を、ただなぞっているからだ。
 人の目を意識するという癖は、なんて自分を狭くしてしまうことだろう。
 息子に写真家を目指してほしいわけではないが、これだけは知ってほしい。
 人の目を気にせず、自分の経験をしたほうがいいと。それが自信につながると。

★僕が思う面白い人は、経験が豊かな人ももちろんだが、それだけではない。
 面白い人は、自分がしっかりあって、人の目を気にしない人だ。
 人の批判を気にしないし、人の意見に左右されない。そういう人の言うことやすることは面白いし、そういう人なら自分のやりたいことが見つけられる。誰に何を言われようと自分にとって楽しいことがわかっているから、それができるのだ。

★面白い人というのはまた、会話の達人だ。
 面白い人はみな、どんなに偉くても自慢話はせずに、相手の求める話をしてくれる。
 だから多くの人が、その人の言葉に耳を傾けるのだと思う。
 面白い人の会話は相手を思いやり、相手のことを見下さない。
 「相手が求めること」という大きな幹から、いろんな話に枝分かれさせて楽しませるだけの、会話の引き出しを持っている。つまり、たくさんのことを知っていて、たくさんのことを経験しているのだ。だから僕は、いろんなことをしたいし、本や音楽や芸術に触れたいと思う。

★面白い人になるには、面白い人のそばにいるのがいちばんだが、面白い人は身近にもいるはずだ。だから僕は息子と散歩をしながら、面白そうな人がいたら、どんどん話しかけることにしている。この間は、30年のキャリアだという職人さんに壁塗りの極意を聞いて、ものすごく面白かった。

★今は僕も妻もほめているけれど、もっと大きくなったら、息子には自分で自分をほめてほしい。そうやってほめられることに慣れれば、人にほめられたとき、「そんなことないです」と否定したり「お世辞だろう」と疑ったりしなくなる。
 自分で自分をほめて自信がつけば、人のこともほめられるようになる。
 自信がある面白い人がお互いをほめ合える世の中は、幸せな世の中だと僕は思う。

ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。