【本】ダニエル・ピンク著『フリーエージェント社会の到来』~新しい働き方~

ダニエル・ピンク著『フリーエージェント社会の到来』を読みました。

本書の翻訳は、リンダ・グラットンさんの『ワークシフト』や『ライフシフト』を翻訳した池村千秋さんが担当しています。社会派ブロガー・ちきりんさんの「これからの働き方がここにあります!」との言葉が帯に書かれています。

著者のダニエル・ピンクさんは、クリントン政権下でアル・ゴア副大統領の首席スピーチライターを務めていた人です。ホワイトハウスでの激務により体調を壊し、デンマーク女王からの贈り物の飾り鉢の中に嘔吐したことから自身の働き方を見直し、勤め人からフリーエージェントになったという回想から本書は始まります。

アメリカで原書が書かれたのは2001年ですが、組織から個人に力がシフトしている今の日本にすごく当てはまる本だと思いました。

映画産業では、「映画会社が監督から脚本家、俳優、スタッフまですべて雇っていた時代」から、「映画製作のプロジェクトごとにフリーエージェントのプロフェッショナルが集い、仕事が終われば解散し、それぞれの履歴書に仕事の記録が書き加えられていく時代」へと変化しました。

著者は、これと同じことが、これから多くの産業で起こってくると言います。企業が多くの人員を抱えていては、変化の激しいビジネス環境に対応できないからです。より多くの人がフリーエージェントとして、プロジェクト型の仕事を楽しんでいくとのことです。

この本で面白いと思ったところを3つ紹介したいと思います。

1.これからは自由と安定は相反しないということ。一つの会社で勤めるより、フリーエージェントとしていろんな仕事を持ち、いろんなプロジェクトに関わり、いろんなお客さんがいたほうが安定する。

2.フリーエージェントは仕事自体を楽しみ、さらに仕事と同じくらい遊びを大切にしているということ。「辛い仕事も我慢して頑張ればいつか報われる」と考えたりしないで、目の前の仕事を楽しんでいる。遊びにも全力で、その中から得られたものを仕事に活かしている。

3.フリーエージェントは、いくつかの緩やかなコミュニティに参加している。その中で得られた「弱い絆」の繋がりを通して、自分にとって新しい考え方や情報、新しい機会に触れていく。

社会の変化について、その中でのこれからの働き方について、たくさん考えるきっかけをくれる本でした。

フリーエージェント社会の到来 新装版—組織に雇われない新しい働き方

以下、良かったところを抜粋して紹介したいと思います。

★自由、つまり自分の意思を貫けることは、仕事を意味あるものにするために欠かせないものになった。

★大半のフリーエージェントにとって「自由」とは、行動の自由、選択の自由、それに意思決定の自由である。『フロー体験ー喜びの現象学』などの著書で知られる心理学者のミハイ・チクセントミハイは、「高度な技能が求められる仕事を自由に行えると、その人の自我は豊かになる」のに対して、「高度な技能が必要でない仕事を強制されてやらされる」ほど気が滅入ることはほとんどないと述べている。

★「どう行動するべきかをいつも社会が教えてくれる世界、すなわち、社会が次のステップを指図して、エスカレーターに乗せてくれる楽な世界では、自分の弱みや失敗に直面することがないだけでなく、自分の強みを知ることもない。」ーエイブラハム・マズロー

★責任とは、自分の生活の糧と評判を賭けて仕事をするということだ。

★従来は、労働者と市場の間には組織が存在した。その結果、怠け者やぐうたら社員は能力や仕事の中身以上の給料を受け取り、仕事熱心な社員やクリエイティブな発想の持ち主は仕事に見合うだけの給料をもらっていなかった。働き者の社員が怠け者の社員に補助金を与えているに等しかったのだ。しかしフリーエージェントは、組織という緩衝材のおかげで損をすることもなければ、特をすることもない。市場に直接の責任を負っているのだ。会社員と違って、フリーエージェントは自分に対する評価をすぐに知ることができる。

★フリーエージェントの価値観は、プロテスタントの労働倫理、とくに生真面目で堅苦しい考え方や娯楽を軽蔑する発想を捨て去るものだ。新しい労働倫理は、仕事と同じくらいに遊びを大切にする。フリーエージェントという働き方の本質は、仕事と遊びを区別しにくいというところにあるのかもしれない。情報が大量に行き交い、創造性を原動力とする経済では、生真面目な労働倫理に従ってばかりいて遊びがないと、その人はフリーエージェントとして使い物にならなくなる恐れがある。

★重要なのは、フリーエージェントの人たちは、ウォールストリート・ジャーナル紙コラムニストのスー・シェレンバーガーが言う「明日のためにという罠」ーいますぐに楽しみと満足を得るのではなく、「将来に快適な生活が待っていると信じて、未来のご褒美のために生きる」という態度ーに陥っていないという点だ。多くのフリーエージェントにとって、仕事は「明日のため」のものというより、それ自体がご褒美なのである。

★最良のリスクヘッジの方法は、様々なプロジェクトや顧客、技能などをもつこと。すなわち仕事を「分散」させることだ。

★21世紀の経済では、自由と安定は相反するものとは限らないということだ。たくさんの顧客やプロジェクトを抱えて働けば、ひとりの上司の下で働くより楽しいだけでなく、安全でもあるかもしれない。取引先や仕事、人脈を広げたほうが、仕事を失う危険を減らすことができるからだ。自由は、かつては安定を得るうえでは回り道だったが、いまは安定を得るための近道になったのだ。

★フリーエージェントは、能力と引き換えに、機会を手にする。その機会とは、魅力的なプロジェクトで働く機会の場合もあれば、新しい技能を身につける機会の場合もある。新しい人と知り合い、人脈を広げる機会の場合もあれば、仕事を楽しむ機会の場合もある。もちろん、金を儲ける機会の場合もある。

★フリーエージェントは、弱い絆を介して、いろいろな場に出入りする人たちと知り合いになることができる。弱い絆で結ばれている知り合いは、いつも親しくしている相手ではないからこそ、自分とは縁遠い考え方や情報、チャンスに触れる機会を与えてくれるのだ。

★カリフォルニア大学リバーサイド校のアレクサンドラ・マリヤンスキーとジョナサン・H・ターナーの著書『社会という檻ー人間性と社会進化』によれば、進化の跡を見る限り、人類は「オープンで流動的で個人主義的な」システムを好む傾向があるという。「社会の構造を制約の強いものにしようとするのは、人間の遺伝的傾向に反している」「中心や構造、統合のない状況は、人間の性質に強く適合している」と、マリヤンスキーとターナーは主張。「緊密な社会構造に組み込まれる」ことを人間は求めるものだという主張を切って捨て、本質的に人間は「弱い絆の人間関係や緩やかで流動的なコミュニティー、可動性、不安定な社会構造の中に放り込まれてもほとんど問題を感じない」という主張を強力に展開している。

★フリーエージェントという働き方を選ぶ人の増加は、教育の現場で起こりつつある3つの変化をいっそう加速・拡大させることになるだろう。その3つの変化とは、在宅教育の拡大、新しいタイプの高校の増加、それに成人教育の大胆な革新である。こうした新しい動きは、1世紀前の公的な義務教育の導入に匹敵する大きな変化になるだろう。ひと言で言えば、アメリカ社会の「脱学校」化が進むのだ。

★在宅教育とは、子どもが従来のような学校には通わずに、自分の好きなように、親や家庭教師、ほかの子どもの力を借りて勉強することを言う。

★在宅教育を受けている子どもは、社会性の面でも概して極めて好ましい傾向が見られる。在宅教育に対する最も大きな誤解のひとつは、社会性のない子どもが育つというものだ。しかし実際には、在宅教育を受けている子どもは、従来の学校に通う同世代の子どもより大人と接する時間や地域社会で過ごす時間、違う年齢の子どもとつき合う時間が多い。

★フリーエージェントが独立した労働者であるのに対し、在宅教育の子どもは独立した学習者だ。

★在宅教育なら、もっと自由に自分の好きなことができるし、先生や同世代の子どもの意思に合わせて行動する必要も少ない。自分の行動に自分で責任をもち、リスクは自分で引き受け、自分なりの基準で成功を定義することができる。

★21世紀には、立派な大学の卒業証書よりも、インターネットへのアクセスと賢明な仕事仲間のネットワークが知識への切符になる。しかも、生涯を通じて、その切符を何度も使うようになるだろう。