『センスメイキング』という本を読了しました。
この本の主張は、
データを基にした論理的な判断 < 人文科学などの教養を基にした直観的な洞察
というものです。
著者のクリスチャン・マスビアウ氏は、人文科学を基盤とした戦略コンサルティング会社の創業者です。
一般的には、コンサルティング会社は論理を基にサービスを提供するイメージがあるので、数字を扱う学問や経営学等のフレームワークを基盤にしているように思いますが、著者の会社が歴史や哲学、人類学などの人文科学を基盤にしているところがおもしろいですね。
本書で紹介されている、ある研究によると、アメリカの年収上位10%の層に着目すると、大学で政治学や哲学、演劇、歴史など教養系の学部を専攻した人たちが突出しているそうです。
大学卒業直後の年代では、STEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics)を専攻した人が比較的高い年収を得ている傾向にあるけれど、その後の年代で経営を取り仕切るような人々、世界を変えるようなダイナミックなビジネスを起こすような人々は、教養学部系の学位を持っている傾向が強いようです。
ビジョンを形作る人には、鋭い洞察力を引き出すための幅広い教養が必要とされ、そのビジョンを現実化させていく過程で、STEM系の能力を持つ人が必要とされるということだと思います。
人文科学系の読書を楽しみながら、いろんな場所を訪れ、自分の五感を通して得る情報や経験を大切にしていきたいと思える本でした。
以下、よかったところの抜粋を紹介したいと思います。
★本当に成功しているリーダーは、好奇心旺盛で幅広い教育を受けていて、小説も帳簿も読める能力の持ち主なのだ。
★人文科学のたしなみがあれば、自分とは違う世界のありようを想像できるようになる。恩恵はそれだけではない。人間の経験に関する文化的な知識や説明を背景に、自分とは違う世界にしっかりと思いを巡らせることができれば、回りまわって自分自身が身を置く世界についても、もっと鋭い視点が持てるようになる。
★オーブンで1時間じっくり調理した南フランスのカスレという伝統料理は、いったいどんな香りがするのか知っておくべきだし、朝、砂漠に吹き荒れる砂嵐で目を痛める人々がいることも知らないといけない。一人称の視点で語らない詩があることを知っておく必要があるし、攻撃を受けたら山に逃げることを常識としている人々が存在することも知らないといけない。
このように文化を調べ、全方位的に理解するには、我々の人間性をフルに活用しなければならない。自分自身の知性、精神、感覚を駆使して作業に当たらなければならない。特に重要なのは、他の文化について何か意味のあることを語る場合、自身の文化の土台となっている先入観や前提をほんの少し捨て去る必要がある。自分自身の一部を本気で捨て去れば、その分、まったくもって新しい何かが取り込まれる。洞察力も得られる。このような洞察力を育む行為を筆者は「センスメイキング」と呼んでいる。
★素晴らしい芸術作品は、時代を超えて我々の心に訴えかける。我々の想像力が及ぶぎりぎりのところにある別世界に対して、「自分と同じだ」と共感する機会を与えてくれるのだ。同時に、我々が身を置く世界、長い歴史の中で我々が生きているこの瞬間をかたちづくっている前提までをも明確に見せてくれる。