7人の識者へのインタビューをまとめた本『未来を読む』を読了しました。
『サピエンス全史』の著者ユヴァル・ノア・ハラリさんと『LIFE SHIFT』の著者リンダ・グラットンさんの話がすごく明快でした。
ハラリさんは、自ら「体験」することの大切さ、変化できる柔軟性を持つこと、学問分野横断的に学ぶことの意義、最悪の可能性を想定して備えることの大切さなどを語っていました。
グラットンさんは、人生100年時代における日本へのアドバイスや、企業や制度の変化を促すために個人としてできること、などについて語っていました。
僕は本書を読んで、
「インターネットを通して得る情報を過信せず、自ら体験することに重きを置く」
ことをこれから意識していきたいなと思いました。
以下、よかったところを抜粋して紹介したいと思います。
【ユヴァル・ノア・ハラリ】
★今、コンピュータや携帯電話など新しい技術が進歩したことで、現実と虚構の区別をつけるのがさらに難しくなっています。というのも、人間の仕事や生活がサイバースペース上で行われることが増えているからです。スマートフォンやパソコンで、メールを頻繁にチェックし、ほかの場所や過去に起きたことを夢中で検索すればするほど、匂いをかいだり、味を確かめたり、実際に起きていることを聞いたり見たりする能力は失われます。自分の体への接触、今ここで起きていることの目前のリアリティへの接触を失いつつあります。
★経済の面からみると、これはいいことかもしれません。上司は絶えずあなたにメールをチェックしてほしいでしょうし、スマートフォンでいつでも電話にも出てほしいからです。でも「心の平和」のためには問題があります。自分自身の身体や五感が、目前の現実との接触を失えば、自分で人生をコントロールできなくなり、幸せを失うからです。
★──あなたは「二十一世紀の人間は狩猟民族に学ぶべき」とも言っています。
ハラリ:もちろん彼らが実際に使っていたスキルは、二十一世紀にはあまり役立ちません。でも狩猟民族から二つの重要なことを学ぶことができます。 一つは、自分たちの願望に合うように環境を変えるのではなく、自分自身を環境に適応させることです。狩猟民族は絶えず、自分たちの力では環境を変えることができない世界で生きていました。だから、現代人よりもはるかに柔軟性や適応力があります。これこそ、われわれが学びたいスキルです。
もう一つは、自分の身体や五感に対して、鋭敏であることです。狩猟民族として生き延びるためには、目で見ること、耳で聞くこと、鼻で嗅ぐこと、すべてについて研ぎ澄ました感覚が必要でした。現代人はサイバースペースにますます多くの時間を費やし、こうした能力を失いつつあり、それによって、生き抜く力が低下しています。メールを書くことはどんどんうまくなりますが、自分の五感に注意を払う能力を失っている今、これが狩猟民族から学ぶべき点です。
★私はひとつの分野に留まらず、抱いた疑問への答えを追究しています。世界は一つです。現実も一つです。でも、大学では実用的な目的で歴史、生物、経済、物理など異なる専門に分かれます。これはこれで必要です。すべての分野で専門家になることは誰にもできません。ただ、そこで問題となるのは、一つの分野に閉じこもっていると、他の分野で何が起きているか把握できないことです。重要な問題に対する答えを見つけたければ、自分の専門分野を出てほかの分野についての知識をもたなければなりません。私にとっては学問の境界よりも疑問の方が重要です。たとえば「石器時代よりも今の人の方が幸せかどうか」という疑問に答えるためには、心理学、生物学についての知識が必要です。だからその分野について、資料を読みます。コツとしては、自分の期待をある意味で制限することです。すべての分野で専門家になることはできませんので、すべてのテーマについて深く知ることはできないとまず認めます。狭い分野での専門家には、自分ではなく、ほかの人がなれば良い、ということです。たとえ広く浅くでも、異なるテーマについて理解をしている学者は、ビッグ・ピクチャーを提供することができます。学問横断的なアプローチが大切なのは、今に始まったことではありません。歴史のどの時期をとっても、世界で何が起きているかを広く理解したければ、学問横断的なアプローチが必要でした。今日、人類が抱える重要な諸問題を扱うには、やはり学問横断的なアプローチが必要となってきます。気候変動のようなテーマを考える場合でも、気候以外、つまり気象学や地理学以外のことも理解しなければなりません。たとえば、経済的要因、政治的要因、文化的要因を考慮しなければならないでしょう。ですから、政治、経済、歴史、哲学の知識も必要なのです。同じことがAIのような新しいテクノロジーにも言えます。AIの扱い方を理解するには、もちろんコンピュータをある程度理解していなければなりません。自分でプログラムをする方法を知る必要はありませんが、AIとは何か、それができることは何か、把握しておく必要があります。また、政治や経済、哲学のことも理解しておくと、AIが提示するコンピュータ・サイエンス以外の疑問、経済や政治、哲学の分野での疑問と向き合えます。 このように、今日われわれが直面している重要な問題を扱うには、学問横断的なアプローチが不可欠となっているのです。
★われわれができる唯一のことは、異なる可能性を描いてどの可能性が実際に実現するかを予測することです。世界は決定論的ではありませんから、それができる人はいません。 前述のとおり、テクノロジーをみると、AIが非常に速い速度で進化していて、それが世界を変えることは誰でも想像がつくと思います。単にコンピュータを変えるだけでなく、経済、政治、文化をも変えるでしょう。では、どのように変えるのか。一介の学者である私の使命は、もっとも危険な可能性も含めて、さまざまな可能性を示すことです。人々が「役立たず階級」の出現のような、特に危険な可能性を意識することはとても重要です。何か好ましくない可能性が考えられれば、それについて対処することもできます。もし何もできないのであれば、「こういうことが起きるだろう」という予測は何の意味もありません。予測する意味とは、こういう予測がありますよ、どれもが起こる可能性があるけれど、ある可能性について危険を感じるなら、今すぐ何とかしてください、ということです。
【リンダ・グラットン】
★エイジズム(年齢差別)は日本の悪い一面です。イギリスでは求人に年齢制限を設けることは違法で、履歴書にも年齢や生年月日を書きません。日本も年齢差別を禁ずる法律はありますが、うまく運用されていません。ただでさえ日本には高齢者が多いのですから、年齢差別をしている場合ではありません。
★── 一向に変わらない企業や国家に対し、個人は何をすべきなのでしょうか。いくら「人生一〇〇年時代」に応じた動きをしようとも、制度が変わらなければ大変だと思いますが。
グラットン:まったくそのとおりです。一つは労働市場に対する交渉力を身につけることです。たとえばヨーロッパを見ると、PwCやデロイト・トーマツ、KPMGといったプロフェッショナル・ファームは、必死に変化をしようとしています。なぜなら、会社を辞める人が増えているからです。一向に変わらない企業に対して、異を唱える人が増えてくれば、次第に企業は変わっていきます。だから個人として、会社に対する不満を示す一つの方法は、会社を辞めることなのです。ただ当然ながら、そうした戦略を取るためには、自分が労働市場で通用する人材でなければなりません。そこで、自分のキャリアを常に考え、新しい知識やスキルを獲得することが求められるのです。